_ そういえば、電車でちょっとだけバーゼルにも足を伸ばしたのだけど、そこで絵はがきを買おうとして「オイロ」を出したら、「うちはオイロは使えないのよ」と言われた。大英帝国以外にもそんな国があるのか…と、驚きつつクレジットカードを使ってまで買うほどのものではなかったが、絵はがきを買ってしまった。その明細書が送られて来たのをみて、旅は終わってしまったのだな…としんみり思う。どんなときに寂しいかといえば、だらだらと放置しているバックパックをお風呂でざぶざぶあらって、庭に干して乾かして、防虫剤を放り込んで押し入れにしまうとき。使うことのなかった旅行保険の約款などをぽいっと捨ててしまうとき。使い切らなかった化粧水や乳液を日常生活の中で使い切ってしまったとき、など。鞄の底から1セントとか50セントが見つかると、うれしく思う。
_ 今発売中の最新の「河出ムック」は武田百合子特集だ。掲載されている写真の大部分は、全集にも収められているので、知っていたものがほとんどだったが、あいかわらず思うのは、なんて愛らしい表情の人かということだ。いかにも利発で聡明そうな子ども時代の写真そのままに大人になったようだ。泰淳さんと一緒に映っている写真では、あの無骨な文体の武田泰淳がちいさな男の子のような顔つきをしているのがよい。
そうか、百合子さんもベルリンの動物園に行ったのだなあ。あのゴリラの像はなんとなく見覚えがある。私もあのゴリラと一緒に写真を撮りたかったなと思った。
武田泰淳の『富士』、今度こそ、がんばって読み通したい。