_ 5月上旬に引っ越しの予定であった。それまで住んでいた家の契約終了を機に、少し南側の住宅地に引っ越すことを決めて、新聞の賃貸住宅情報をこまめにチェックしてようようこれなら住めるかという物件を決めた。翌日、如月さんだけが新居を訪れて、電球を取り付けたり軽く掃除をしたところ、隣に住む大家さんがやってきた。世間話をしているうちに、大家さんの身の上話となった。語るところによると、夫人と子どもふたりは現在別居中。家族は大家さんが早く亡くなれば、現在の地所を売って財産とすることができるため、あれやこれやの手を使って、大家さんの命を奪おうとしているのだとか。学園都市の中のこれまたひじょうに有名な私立学校の名前が付けられた高級ではないが十分にスノッブな学園街。なんと物騒な話であることよと、夫を促して話を聞いたらば。。たとえば二ヶ月前のある日、大家さんはある日突然、鉄砲で撃たれたのだとか。幸い、一命を取り留め、ようやく回復して歩いていたある日、ヤシノキなどまったく生えていないところで、突然、頭上にヤシノミが降ってきたとか。夜毎、得体のしれない気持ちの悪さが襲ってきて眠れないだとか。。前の店子がなぜ引っ越したのかを聞いてみると、店子の二十代の息子が夜毎、家の前で怪しい騒ぎを起こすのだとか。。
手付け金を払ってあったのと、わたしが気に入って決めた家だったから、なんとかいろいろポジティブな考え方をして、この家に引っ越そうと思っていたのだが、決定打がきた。大家の甥と称する男がある日、家にやってきた。小一時間も、どうでもよい話とか手付け金をもっと増やさないと、別の店子に貸してしまうおそれがあるだの話していき、最後には当時住んでいた家には、「悪霊がすみついている」だの話して帰って行った。曰く、この家にわたしが問題なく住めるのは、わたしに霊感がないからだとか。。普通の某国人ならば、いやがってこんなところには住まないなどという。なんじゃあれはと気持ち悪がっていたら、5分も経たないうちに男が戻ってきた。曰く、病気の家族のために薬局で薬を引き取ることになっていたのだが、お金を忘れたから貸して欲しいとのこと。。
よくある手ではあるが、本当のことだったらかわいそうな話などと強く考えることにして、言われた金額を貸した。ただし、きちんと借用書は書かせた。
そんなことがあって、段々、新居に行くのがわずらわしくなり、そうこうしているうちに、入院することになった。退院してから日本の母に、ああー、どうもあの家はだめかもしれない。。実は。。と説明すると、「そんな家はやめなはれ!」と一喝される。
というわけで、その後、もう筆舌しがたいあれこれを経て、新居は解約(手付け金は返してもらえなかった。。)、わたしは泣く思いで、友達に相談したところ、あっけなく新しい家を見つけてくれた。とりあえずの避難所なので、一間しかないのだが、この国にしてはほんとうに珍しく日当たり良好、一日中、柔らかな日差しが降り注ぎ、清潔なバスルームがついている。庭は蚊のいない、素敵な庭園風になっている。家賃は4千円ほど。高い部類の部屋ではあるが、ようやく昨日、荷物を運び込み、今日から生活をし始めている。
調査で住み着いているのと、生活するのとでは、見えてくるもの、関わらざるを得ないものの種類がこれほどまでに違うのかと、今になってもまったく新しいこと続きで、エキサイティングでもあり、結構疲れるがなー、とうんざりするものでもあることです。