_ 久しぶりに湯船に浸かった。あ〜、極楽!結局、物療はしないことにした。医療費の余裕がもうなかったということもあるし、先生の予想以上に回復のペースがよかったらしく、毎日、きちんとふくらはぎを圧迫して、コンドロイチンを飲み続けて、物療の代わりの運動をすればよいでしょうということになったのだった。毎日、少しずつ余裕ができてきて、長く座ったままでも大丈夫な時間が少しずつ長くなってきた。本を読む集中力も回復してきた。子どもと遊ぶときも、妙に緊張した面持ちでいなくてもよくなってきた。ずっと離れていたインターネットは、なんだかやっぱり距離ができたままで、たまに料理のレシピを探すだけになっていた。6キロ痩せた体重は3キロ戻った。足が痛くて痛くて、まったく眠った気にならなかったのが、ぐっすり眠れるようになった。と、込み入ったドラマ仕立ての夢を見るようになった。そのうち、気になった夢がふたつあった。重い腰というか筆を取り上げて、連絡をしてみたところ、やはりというのか、訃報を知ることになったのだった。
まん丸な目をして、無邪気な動作で和ましてくれてきた子どもが、ときどきとても物騒な目つきをするようになった。いろいろな世界を知る年齢になったのだろうか。気に入らないと、ものを投げつけたりもする。機嫌のよいときは、何時間でも彼女だけにわかることばで、何か歌を歌い続けているようにもなった。
病気で入院しているときとは違って、暗く落ち込むこともなかったし、淡々と過ごしていたのだけど、痛みのある日常はなにかを根本的に変えたような気がしないでもない。それがどのような変化だったのか、今ははっきりとはわからないのだけれど。久しぶりに風呂椅子に腰掛けて、ゆっくりと髪を洗って、湯船に長く、長く浸かった。甕棺墓みたいに足を曲げないといけないほど小さな湯船なので、足が完全によくなるまではお風呂の楽しみを完全に奪われていたのだった。銭湯にでもいけばよかったかな。
気がつけば秋が深まっていて、衣装ケースから引っ張り出した樟脳臭いニットのカーディガンのちくちくを板心地よく手首のあたりに感じたりしながら、夜長を過ごしている。