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lost luggages ねぶくろ 書簡
--sleeping bag・g-ism/ist--

07-09-2011 / Wednesday [長年日記]

_ 足の具合はずいぶんとよくなってきた。コンドロイチンという成分が配合されているそれはそれは高い薬を飲んでいるのだが、ついつい飲み忘れたときなど、薬のおかげで足の痛みが抑えられていることが実感できるほど、本当によく効くお薬のようである。寝たきりになると筋肉が衰えてしまって、その復旧がたいへんだということを知っているので、痛くても毎日、運動を欠かさないようにしている。昔、心斎橋の商店街で250円で買ったものの、ちょっときつすぎて穿けなかったトレンカというはきものを穿くと実に具合がよろしく、きちんと締め付けられるから痛みをほとんど感じないですんでいる。相変わらず辛いのは椅子に座り続けたり、畳の上に座ったりするとき。畳の上ではもちろん正座はできないので、足を伸ばしているのだがこれがほんとにしんどい。寝るときも、重ねた座布団の上に片足を乗せているため、やはり寝苦しい。足を怪我したりすると、運動不足になって太ったりすることが多いようだが、暑さも手伝ってか、この1ヶ月で5キロ痩せた。案外、繊細?なのでしょうか(笑)。でもうれしいことです。

この間、読んだ本は佐渡裕のエッセーだけ。夜眠れないので、昼もぼーっとしてしまい、じっと座ったり、集中して何かをすることができないため、なにやかんやと立ち仕事や外に買い物に行くからか、とてもせわしない生活をしていた。それで痩せたということもあるのかもしれない。こどもはとても無邪気にわたしの膝の上に駆け上がってきたり、もちろん何の悪気もなく、ふくらはぎにブロックやままごとの道具をぶつけてみたりすることがある。その度に、悶絶して毎回、一瞬、死んでいます。いろいろあって、リハビリは来週からはじめることになった。このリハビリとは、物理療法のことのようで、実はまだわたしもどんなふうにおこなわれるのかよくわかっていない。とにかく毎日連続して決まった時間だけ取り組むことが必要だとのことで、なかなかスケジュールが取れなかった。足がよくなって、早くまた生活のリズムを立て直したいものです。


24-09-2011 / Saturday [長年日記]

_ 久しぶりに湯船に浸かった。あ〜、極楽!結局、物療はしないことにした。医療費の余裕がもうなかったということもあるし、先生の予想以上に回復のペースがよかったらしく、毎日、きちんとふくらはぎを圧迫して、コンドロイチンを飲み続けて、物療の代わりの運動をすればよいでしょうということになったのだった。毎日、少しずつ余裕ができてきて、長く座ったままでも大丈夫な時間が少しずつ長くなってきた。本を読む集中力も回復してきた。子どもと遊ぶときも、妙に緊張した面持ちでいなくてもよくなってきた。ずっと離れていたインターネットは、なんだかやっぱり距離ができたままで、たまに料理のレシピを探すだけになっていた。6キロ痩せた体重は3キロ戻った。足が痛くて痛くて、まったく眠った気にならなかったのが、ぐっすり眠れるようになった。と、込み入ったドラマ仕立ての夢を見るようになった。そのうち、気になった夢がふたつあった。重い腰というか筆を取り上げて、連絡をしてみたところ、やはりというのか、訃報を知ることになったのだった。

まん丸な目をして、無邪気な動作で和ましてくれてきた子どもが、ときどきとても物騒な目つきをするようになった。いろいろな世界を知る年齢になったのだろうか。気に入らないと、ものを投げつけたりもする。機嫌のよいときは、何時間でも彼女だけにわかることばで、何か歌を歌い続けているようにもなった。

病気で入院しているときとは違って、暗く落ち込むこともなかったし、淡々と過ごしていたのだけど、痛みのある日常はなにかを根本的に変えたような気がしないでもない。それがどのような変化だったのか、今ははっきりとはわからないのだけれど。久しぶりに風呂椅子に腰掛けて、ゆっくりと髪を洗って、湯船に長く、長く浸かった。甕棺墓みたいに足を曲げないといけないほど小さな湯船なので、足が完全によくなるまではお風呂の楽しみを完全に奪われていたのだった。銭湯にでもいけばよかったかな。

気がつけば秋が深まっていて、衣装ケースから引っ張り出した樟脳臭いニットのカーディガンのちくちくを板心地よく手首のあたりに感じたりしながら、夜長を過ごしている。


26-09-2011 / Monday [長年日記]

_ 椅子にじっと座っていることができたり、床にじっと座っていることができるのが、こんなに気持ちいいなんて!窮屈なトレンカやサポーターから解放された心地よさに匹敵する。今までよう我慢してきたものだ。一時は通常の二倍の太さになっていた左足のふくらはぎは、今、なんとか元の太さに戻っている。それはそれで、問題ありの太さではあるのだが、すくなくとも左右非対称の太さではないから、本質的な見栄えの悪さはさておき、気持ちの問題としては落ち着いている。自転車にももう乗ってみて、リハビリ代わりにしたほうがよいらしいので、ぼちぼちと始めてみよう。

少し前からのことだけど、子どもはぬいぐるみが大好きで、どこで教わったのだか、人形を抱いて小首を傾げ、かわいい、かわいいというように、赤子をあやす仕草をする。その様子がまたいかにも幼子という風情でかわいらしく、足の痛みを忘れるような気持ちになることがあった。その一方、実に無邪気におやつの野菜ジュースや牛乳を、あたかも理科の実験を行っているがごとしに、神妙な面持ちで慎重な手付きで静かにカーペットの上に流してしまうこともしばしばあった。こちらが油断して、ビニールシートを下に敷いていなかったり、そばで監督していないときに限ってそういう事態が発生する。今は体が動かせるようになったから、後始末も身軽にできるようになったので、子どもだから仕方がないねえ、などという余裕すら生まれている。山上憶良ではないが、なにをしても子どもがいる日常を今は生きているんだなあと思ったりしている。


28-09-2011 / Wednesday [長年日記]

_ なんだかばっつい(分厚い)本を読み浸りたいような気がして、図書館で、ただ本の幅だけを気にしながら書架の間を歩いて、犬も当たれば棒に当たる式に選んでみた本が、やっぱり外れてしまいました(笑)。なにごとも、真剣に選ばなければいかんですな。

出汁昆布の古いのが一袋あったので、贅沢に出汁を取って、冬瓜、絹厚揚げ、秋なすの煮物。二日目には高野豆腐を入れた。エビくらい入れれば、高級感が増したかもしれないのだけど、おいしそうなエビがなかったので精進料理となった。大量の昆布が出たので、細かい千切りにして、これもちょっと古くなったちりめんじゃこを炒ったものとピーマンの千切りを合わせてごはんのおとものようなものを作った。精進料理のほうは、子どもがほとんど一人で食べてしまった。子どもはなすが大好きで、出来たての熱さもものともせず、はふはふとして、喜んで食べる。ご飯もよく食べる。小さい子どもが一所懸命にごはんをたべている姿は、小動物がえさを食べている姿にも似て、かわいらしい。去年、子どもの保育園の見学に行ったとき、8人くらいの小さい人たちが、一列に並べられた椅子に座って、昼食を取っている場面があった。先生方はほんとうにたいへんだろうと思ったけれど、その様子は本当に愛らしいものだった。語彙が貧弱でうまく例えられませんが、ぎごちない手付きで一所懸命お匙を握って、ご飯を食べている表情は真剣というかむしろ無表情だったのだけど、それゆえに食べています、大きくなろうと思っています感が溢れていて、思わず目頭が熱くなったりしたのだった。子どもは、突然、ミカンを食べることに目覚めたらしく、昨日まで振り向きもしなかったのに、突然、自分で皮をむき出して、一房ずつぎゅーっと絞りながら、果汁とその絞りかすを分けるようになった。絞りかすは、わたしにくれるときもあるが、基本的に自分で食べたいようで、大人の目から見れば、まあなんてぐちゃぐちゃにして!という感じにしか思われないのだが、彼女の食べ方はすでに確立されているようである。邪魔すると泣いてたいへんなので、ちょっととおくから見守りつつ、お皿の外に捨て置かれた絞りかすをせっせと食べている。

_ 思いっきり油断してしまったからなのか、風邪を引いてしまった。すり下ろしたショウガを入れた紅茶をせっせと飲めども、喉の痛みと鼻の奥の不快感からは解放されず、明日あたり塩を買ってきて、鼻うがいをしたほうがええかなと思い始めたところ。


29-09-2011 / Thursday [長年日記]

_ 子どもは動物が大好きなようなで、大きな犬もキャンキャン吠える小型犬も、睨みをきかせる野良猫も、みな平等に手を伸ばして、口に指を突っ込もうとする。なので、いつもその行動が開始される気配を感じると同時に、動物からなるべく遠回りして子どもを引き離す体勢に入る。それが時として、犬の散歩を引率しておられる方の気を悪くすることもあるようで、こちらの穿ちすぎの考えである可能性もあるのだが、明らかにむすっとした表情をされることもある。でもいちいちなにも説明しないし、さっと黙礼だけして通り過ぎるのである。子どもは動物も昆虫も分け隔てなく好む。いつか子どもがカエルを家に持って帰ってきたらどうしようか。。当面のわたしの恐怖はその日のことである。ほかの動物はなんとかこちらも対応できるのだが、カエルだけはほんとうにだめ。絶対にだめ。なのだけど、親の好き嫌いで、この世にはカエルという生物が存在しないような教育をすることにも疑問があるので、子どもにはカエル模様の食事用エプロンやトイレトレーニングパンツやら、果てはカエルの登場する絵本やらまで、意図的に接触を遮断するようなことはせずに与えている。おかげで子どもは、カエルの挿絵が絵本に出てくると、ウサギの挿絵を見つけたときと同じく、ぴょんぴょーんと、跳びはねるまねをするようになった。カエルとウサギは似ているから、触るんだったらウサギにしようねと言えば、聞いてくれるんじゃないかなと思っている。

_ 風邪がひどくなったので、昨日は昼から何も食べずにひたすら寝る。夕方、一日保育から子どもを迎えに行って、子どもには手抜き夕飯(圧力鍋でささっと炊いたカボチャ、昆布、オクラみじん切り、挽き割り納豆どんぶり)を食べさせ、午後7時過ぎには早々と就寝。途中、一度だけ目が覚めたけれど朝までたっぷり12時間、寝ることができた。それでもやっぱり、風邪は治るわけでもなく、頭の鈍痛と喉の痛みがほんの少しだけ和らいだかなという感じ。咳が出ないのが幸い。


30-09-2011 / Friday [長年日記]

_ どぶ川といってもよいような川沿いにあるThe Majestic Hotelは、今では世界遺産に指定されているマレー半島はマラカにある植民地時代に建てられたホテルである。たいそう豪勢な名付けがされているが、二階建ての木造建築の外観からは往事であっても、それほどに威厳があったとは想像しにくい様相を呈していたのではないかと思われるようなものだった。金子光晴が大好きで、なんとなく足跡を辿る旅をしてみたかったわたしは、ある会の懇親会で、今度そんな旅行をしてみようと思っていますと、ある先生に話した。なにかそういう流れがあったのだろう。しかしだからといって、なにか旅に役立つような情報を得たかったということではなかった。ところが思いがけず、件のホテルに泊まると金子光晴が島嶼部アジアを歩いていた頃を偲ばせるものがあるはずですよとの助言をいただいたのだった。果たしてわたしは、シンガポールから半島に入ってバスを乗り継いでいくつかの寂れた町で宿を取った後に、マラカに到着し、そのホテルを目指したのだった。

チェックインしたのは午後二時頃。ぎしぎしと音を立てる階段を上りながら、夜になったらこのホテルに戻る道は少し怖いかもしれないと思ったことを思い出す。確かにものすごく余裕のある造作である。廊下の広さが八畳間ほどの幅に見えた。一階だったか二階だったか、そこだけぴかぴかに光るほどに木製の手すりが磨かれていたのか、あるいはそれだけ多くの人がそこに集まったからなのか、バーカウンターが見えた。テーブル席があるようなところには、さすがに歴史を感じさせるような重厚な威厳を放つビリヤード台が見えた。値段は47リンギットだと言われた。学生割り引きはないかと交渉。朝食がつかないのだからと45リンギットになったのだが、もともと45リンギットだったんじゃないかと思うほど、あっさりとまけてくれた。40といえばよかったと思ったけど、お遅すぎた。わたしにあてがわれた部屋は二階で、高い天井には約束事であるファンが据え付けられており、天蓋ベッドではなかったけれど、大きな清潔なキングサイズのベッドがあった。キングサイズというのは、ダブルベッド二つ分の広さである。部屋は明るかったが、ものすごく誇りっぽく、ペンキというのか装飾が剥げた木造の部屋の造作は、場末感すら漂うようなものであった。浴室は恐ろしく広かった。そして清潔だとも言いがたかった。ただしとても明るかった。猫足の浴槽に入るのはそれが初めての経験だった。恐ろしく愛想の悪いフロントの華人系の初老の男性は、交渉の間も、部屋に案内してくれる間も、ずっと無表情だった。学生だからと言ってまけてくれというような客はおまえが初めてだといいたいけれど、客だから我慢していわないという気持ちが伝わってくるような気さえした。

荷物を部屋において、さっそくマラカの歴史観光を適当に済ませて、早めに帰宅しようと考えていたので、足早に街を駆け抜けようとしていたのだが、思いがけず、旅の仲間ができた。東京から来た女性で、渋谷のレコード屋(当時だってすでに死語だったはずだけど、その人はその有名CDショップのことをそういったのだった)に勤めるわたしより少し年上の人だった。ふたりでマラカともマレーシアとも全然関係のない歌手やバンドの話をして、一人だったら絶対に入らなかったような郷土料理の店に入って昼食を取ったのだから、チェックインが午後二時というのは記憶違いだったのだろうか。部屋の中の埃の空気にきらきらと差し込む日差しは、午前中でも午後のような柔らかさを感じさせるものだったからなのだろうか。それからずっとその人と一緒に過ごして、夜ご飯も中華食堂で肉骨茶を食べた。歩道に面したテーブルで行き交う人を見ながら食事を取り、ふと食堂の前の歩道の水槽やらタライが並んでいるのに目をやり、茶色にはっとするほど鮮やかな赤色の水玉の何かが見えたとき、それ以上見てはいけないという信号を受け取ったはずだったのに、ついつい凝視して、それが水蛙だと確認したときは、一層、このどぶ川沿いのあのホテルに一人で帰るのが怖くなった。わたしにはそのカエルがこのどぶ川で捕らえられたもののような気がしたのだった。あの無愛想なフロントの男性が夜になると網でカエルを浚えている姿が見えるような気がしたのだ。

あのマラカで過ごした数日間から、どれくらい年月が過ぎたのだろうか。レコード屋の女性に約束した写真を届けることも叶わぬまま、そのレコード屋ももうとうの昔に渋谷からはなくなってしまった。このホテルのことは、何年か前にもこの日記に書いたことがあったような気もする。それからだってずっと忘れていたのに今、また思い出したのは、先日、NHKで「グッドモーニング・ベトナム」を観たからである。大使館員やらロビン・ウィリアムズやらが泊まっていたホテルは紛れもなく植民地風。撮影地はタイだというから、実際には植民地建築ではないのだろうけど、そういう造作だった。それをみて、これまでにいろいろと泊まったことのあったコロニアルホテルのことを思い出したというわけである。それで、ふと思い立って、The Majestic Hotelを検索してみたところ、どうやら数年前にリノベーションしたらしい。昔、わたしが泊まったときの様相とは似ても似つかぬ、しかしなんとなくそういえばそういう雰囲気もあったなあ、しかしこれはまたえらい大幅改装やなあというモダンな感じに生まれ変わっていた。ホテルに対するレビューを読んだ。「従業員教育がなっていない」「愛想が悪すぎる」とある。これは間違いなく、あの日、わたしが泊まったホテルだ。もう一度、泊まりに行きたいような気がするけれど、たぶん、もう二度と行くことはないだろう。いつか子どもに話してみよう。子どもが行ってくれるかもしれないし、いやがるかもしれないけど。


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