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lost luggages ねぶくろ 書簡
--sleeping bag・g-ism/ist--

25-06-2008 / Wednesday [長年日記]

_ バイクで走るのが楽しくて楽しくて、週末はほとんどバイクに乗りっぱなしの生活。景色を見ることができるスピードは、時速30kmくらいまで。いや、20kmか。わたしみたいに70kmで走ると、景色は色の塊となり、どんどんと左右に流れる。前に続く道をひたすらにらみつけながら走ることの何が楽しいのかといえば、上手く説明できない。次の瞬間、どこかへ放り出されてしまうかもしれないことを考えながら、一定の速度を維持させていることの達成感めいたものなのか。給油のあとジュース飲みながら座っていると、バイクの振動が体中に残っているのを感じたりする。夕日に向かって走るのと、夕日に染まる雲の塊を目指して走るのと、朝の冷たい空気をかき分けて走るのと。丘の向こうに海が見える場所。遠くにかすかに見える寺院を目指して走る道。どこかへ行きたいのだけど、どこにも目的の場所はない。その苛立ちがスピード狂にさせるのか。初めてとおる道は、少し、緊張する。どこに穴が空いているのか、どこにカーブがあって、どこに坂道があるのか。直感だけで走り抜ける山越えの道。直角に下りていくような道を進むときは、それでも下から上ってきてすれ違う他のバイクに励まされる。上らざるを得ない道、下らざるを得ない道がある。オレンジ色の電球がすっかりと灯された頃に戻ってくると、急に力が抜けて、ほっとする。楽しいと思い込みながら走っているのだけど、全身で緊張しているのだよなとも思ったり。道ばたの埃っぽい食堂で、ダンプカーの振動で揺れる紅茶カップの表面を凝視しながら、いつからそこにあるのかもわからないようなチキンを囓る。休息のために下りてきた十数人の砂利取り作業員の人たちの視線を独占しながら思うのは、いや、わたしなんかほんとのこの国の生活のことなんて、ちっとも知らないのだよな、ほんとのところ、ということ。なにも知らない、わかってなどいないということを感じるために、バイクに乗るのかもしれない。


26-06-2008 / Thursday [長年日記]

_ 飛行機が着陸する寸前に、その手前を旋回する小さな丘がある。かつては王国がそこに栄え、丘のてっぺんは、宮殿があった場所らしい。いつかバイクで行ってやろう、そう思いながら、いつのまにか長い時間が過ぎていた。ある日、ふと思い立って、その丘に登った。矢印に従って、小さな細い、しかし辛うじて観光バスがぎりぎり一台通ることのできる道を登った。小刻みに減速しながら、最後にはほとんど停車寸前というスピードでたどり着いたのは、まさに丘のてっぺん。この国にしては珍しく、平らな広い風景が広がっていた。宮殿とは名ばかりで、現在、発掘中の遺構があちらこちらにある。兵隊がかつては集まっていたのかもしれない広場を抜けると、神殿風な場所に着く。その背後には、沐浴場がある。男湯と女湯のように、真ん中にある階段から対称に広がる。自然にできた水場なのか。層を一枚一枚剥がしてできたような水たまりがいくつもあり、思いがけず透明な水を湛えていた。

雰囲気としては、ベトナムはフエの阮朝の王宮のよう。強者どもが夢の後な雰囲気が漂う場所であった。誰もいない。ときどき思い出したようにどこからかヤギやヒツジが現れる。現代の家畜に姿を変えた王宮の人なのだろうか。無表情な顔つきで、草をはみつつ、いつのまにかまたどこかへ消える。

わたしはこの国で、この場所が一番気に入った。静かで、何もないところが気に入っている。屋台も土産物屋も、ここにはない。視界が開けた場所が一カ所あって、そこから丘の下に広がる平野を眺める。霧がかかったような空気の色は、鋭い太陽の日差しをやわらかく屈折させる。しばらくぼーっと、そこに立っていた。持ってきた水筒の水を少しずつ飲みながら、広く見渡せる風景を目に一杯に取り入れる。思いがけず4時間くらいをそこで過ごし、正午過ぎに丘を下りた。しばらくは田園地帯を走り抜け、慌ただしい市街地に戻った。丘を眺めようと下から目をこらしてもなにも見えない。下からは見えない場所に、王は君臨すべき時代だったのだろうか。標高300メートルあるかないかの丘に過ぎないが、そこに漂っていた王国の威厳は、千年以上過ぎた今でも、まだ残っていたのかもしれなかった。


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