_ 人に道を聞かれやすい顔をしているのだろうか。道を尋ねるひと二様。大体、二週間に一回は、道を聞かれる。午前中は、構内にて「湯川秀樹記念センターはどこですか?」と、初老の上品そうなご夫婦に聞かれる。恥ずかしながら知りませんでしたので、ちょうど時計台前だったということもあって、インフォメーションセンターをお教えする。夕方、日が暮れる前に高瀬川の一之船入あたりの桜をみて、久しぶりにキルフェボンでお茶でもしようと歩いていた。桜、きれい、川の水色、春の色とか風流な雰囲気に浸っていたら、突然、目の前に二人組の男女が現れる。男、場末のストリップ劇場の司会みたいなチェックのブレザーに、とれかかったアイパー(どんな髪型かほんとはしらないけど、そんなかんじのパーマがかかっていた)、ひげのそり跡が青い。女、髪型は下妻物語の深田某女のごとし、うそものピンクハウス風のフリル服。女の方が背が高い。ふたりとも確実に年齢はわたしよりはるかに上に見える。をを、春だからみんな楽しそうだな、なんて思って普通に通り過ぎようとしたら、男が呼び止める。「あのう、このあたりはホテル街なのですか?」。わたし「ええっ、ええっ?」女「わたしたち、ホテルにいきたいんです」。わたし「や、ああ、ここはホテル街といえばそうですし、違うといえばちがいますし。。(オークラホテルもロイヤルホテルも☆付きの立派なホテル。いや、そういうホテルとは違うのを探しているのだろうか?答えに窮するわたし)」。男「ぼくたち、ラブホテルをさがしているんですよ。どこかおすすめのところはありませんか?」。わたし、一瞬、絶句。凍り付く。のち、深呼吸して丹田に力を入れつつ、「や、や、そ、そですね、お、岡崎とかそのへんとちがいますか。もうちょっと上がってから信号を右に折れて、橋を渡ってずーっと歩いていかはったらええのとちがいますか」と、やっと喋りきる。男女「ありがとうございますー☆はっぴー☆」。プーマみたいなボストンバッグの持ち手をふたりなかよく一つずつもって、男女、通り過ぎる。
昼間からラブホテルにいくのはいいとしても、道順を人に聞くか?しかもこのわたしに!わたしは、その手の道案内もできそうな顔をしていたのだろうか?岡崎にラブホテルがあるのかどうかはよく知らないけど、なんかあのへんにたくさんあるということを耳学問で知っている。というか、わたしはラブホテルって、行ったことがないのだ。相手がいつも年上だからなのかもしれないけど、いや、それは関係ないな、家か星付きホテルしか知らんのだ。後学のために昼間、自転車で探索しに行ってみよう。またいつだれに道をきかれるかわからないし。というか、強烈な印象を残したふたりのおかげで、わたしは呆然としたまま歩き続け、キルフェボンを通り過ぎてしまった。なにか得体の知れない新種の蛾の鱗粉を浴びてしまったような毒気に当てられ、上島珈琲でコーヒーを飲んで、さっき起きたことを反芻。さらに気分が悪化してきた。でも世の中って、おもしろいね。今日のわたしの服装は、湯川秀樹記念センターのことを絶対にしっていそうにみえるきちんとした格好だと、そのときは思ったのだけど、凸凹ラブホテル事情に精通していそうな雰囲気が醸し出されていたのだろうか。大きな声で、わぁーーーーっと叫んで、駆け出したい気分だよ。
_ 身辺整理。書き物。ヨガ。打ち合わせ。ああ、なんだかなー。そんなんこというんやったら、わたしを採用してからにしてくれ。と、ふつうに思うわよ。