_ バイクで走るのが楽しくて楽しくて、週末はほとんどバイクに乗りっぱなしの生活。景色を見ることができるスピードは、時速30kmくらいまで。いや、20kmか。わたしみたいに70kmで走ると、景色は色の塊となり、どんどんと左右に流れる。前に続く道をひたすらにらみつけながら走ることの何が楽しいのかといえば、上手く説明できない。次の瞬間、どこかへ放り出されてしまうかもしれないことを考えながら、一定の速度を維持させていることの達成感めいたものなのか。給油のあとジュース飲みながら座っていると、バイクの振動が体中に残っているのを感じたりする。夕日に向かって走るのと、夕日に染まる雲の塊を目指して走るのと、朝の冷たい空気をかき分けて走るのと。丘の向こうに海が見える場所。遠くにかすかに見える寺院を目指して走る道。どこかへ行きたいのだけど、どこにも目的の場所はない。その苛立ちがスピード狂にさせるのか。初めてとおる道は、少し、緊張する。どこに穴が空いているのか、どこにカーブがあって、どこに坂道があるのか。直感だけで走り抜ける山越えの道。直角に下りていくような道を進むときは、それでも下から上ってきてすれ違う他のバイクに励まされる。上らざるを得ない道、下らざるを得ない道がある。オレンジ色の電球がすっかりと灯された頃に戻ってくると、急に力が抜けて、ほっとする。楽しいと思い込みながら走っているのだけど、全身で緊張しているのだよなとも思ったり。道ばたの埃っぽい食堂で、ダンプカーの振動で揺れる紅茶カップの表面を凝視しながら、いつからそこにあるのかもわからないようなチキンを囓る。休息のために下りてきた十数人の砂利取り作業員の人たちの視線を独占しながら思うのは、いや、わたしなんかほんとのこの国の生活のことなんて、ちっとも知らないのだよな、ほんとのところ、ということ。なにも知らない、わかってなどいないということを感じるために、バイクに乗るのかもしれない。