_ 数日前から喉がいがいがとしている。無論、間違いなく、風邪の兆候。このところ、喉をやられる風邪によくかかるようになって、このいがいがに悩まされる段階から、咳も止まらなくなっている。喉はひりひり、頭はぼーっとするはで、すぐに薬を飲むことに。いつもは常備風邪薬を服用するのだが、今回は、前回、某国に行ったときに、ふと気が向いて買ってみたアスピリンを試してみた。アスピリンということばには、どこか甘やかな、しかしすこし冷たい青みがかった色が見えるようなイメージがある。実際に口中に投じてみた変哲もない小さな錠剤は、思いがけず、酸っぱい味がした。アメリカの小説を読むと、かなりの確率で登場する薬は、もちろん麻薬ではないけれど(中毒性はあるようだが)、どこかしら密かに憧れを感じさせるようなものでもあった。雑貨屋の薄暗い棚で見つけたアスピリン。効き目はというと、このタイプの鎮静剤を飲むのが久方ぶりだったからなのか、とてもよく効いたように思う。喉の痛みと発熱は、しばらくのちにやってきた眠気に襲われて二時間ほども微睡んだあとには治まっていた。こんな味だったのだなあ。わざとすぐに水を飲まずに、舌の上に乗せるとすぐに溶け始めて広がる苦みを記憶に刻み込みこんだ。夢と夢の間で再読したカズオ・イシグロの小説は、だからアスピリンの味がするようになった。