_ 滅多に乗ることはないのだけど、夜行バスに乗るのが好きだ。動き出すときや、停車するとき、あんなに大きな車体なのに、意外な静けさでスケートしているみたいな感じになるからだと思う。昼間の景色の方が断然、見ていて飽きないのは事実として、夜は家々の灯りがついて、それがまた楽しい。のぞき見の一歩手前かもしれないけど、オレンジ色の灯りにちらりと目を走らせると、家族団欒や一人の食卓が見える。
金子光晴の足跡を追う旅をしたときも、そんな感じだった。華人系の家ではかならず、夜になると赤いランプが灯る祭壇が設えてある。ここにもあるな、あそこにもあるなと、バスの窓から灯りが走っていくのを見ているうちに眠くなったりする。
夜の旅は船に限るな、とも思う。甲板にきゅうきゅうに詰まって、空を見上げながら旅をしたことがある。新月の夜だったので、プラネタリウムみたいだった。時々、星が海にすとんと落ちた。
_ 本を読んでいたら、いつの間にか机のランプだけが点いている状態になったので、ふと、思い出した次第。
_ 夜汽車は乗るのも好きだけど、夜中にふと目が覚めたときに、汽笛が聞こえたり、線路の継ぎ目をがたごとと通り過ぎる音が聞こえてくるのが好きだ。この頃は、もうそういう機会はすっかり少なくなってしまったけども。