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lost luggages ねぶくろ 書簡
--sleeping bag・g-ism/ist--

09-05-2010 / Sunday [長年日記]

_ 某国の客間の風景と言えば、国家元首の肖像写真と並んで、家族写真である。わたしの下宿の大家さんの居間と客間は、ぐるりと四方を5人の子どもの大学卒業写真と結婚写真、そしてそのたび毎に撮影される家族写真で囲まれている。そのたび毎にみな伝統衣装を着衣の上、決められた順序で兄弟姉妹が母親を囲んで立ったり椅子に着席していたりする。この家の父親あるいは夫は、不在である。あるとき、家を出て行ったのだという。末妹が生まれたすぐに、首都に出て行ったきり、帰ってこなくなったのだという。とはいえ、所在は確認されており、それどころか、妻である大家さん以外のすべての子どもは、夜汽車に乗って、それぞれの人生のある時点において、単独で父親の元に家出めいた形で駆け込んだ経験があるのだという。そのことを母親である大家さんは大人になるために必要なステップと考え、子どもを叱るとか泣き暮らすとか、そういうことは一切しなかった。父親である大家さんの夫は、船乗りであり、著名な建築家であり、国家プロジェクトに対するアドバイザーであるという。80歳を越えた今日においてもなお現役として活躍している。大家さんがその妻であるということは、ほとんどの人がもう忘れてしまっているともいう。なぜならば夫が家を出て行ってからすでに40年余り。知己の人びとですら離婚していると思い込んでいるくらいなのだが、実はかれらはずっと別居しているだけなのである。

客間と居間の壁にぐるりと掛けられた数十枚の家族写真には、決して写されていない大家さんの夫は、そこにいないことで一層、顕在化された存在となっている。美貌の妻と聡明な5人の子どもを残し、別の女性と結婚するでもなく所在を隠すでもなく、ある日、ふと出て行ってしまった大家さんの夫である。一体なにがあったのか、尋ねたところで、凡人であるわたしにはわからないかもしれない。ある午後に、大家さんの客間のピアノを弾かせてもらいながら、迫り来る家族写真の威力に、見えない家族の歴史を見たような気がした。

大家さんは、どうやって生きてきたのか。きっとまとまった財産もあったのだと思うのだが、無理をせず、身の回りにあるものを売ったり買ったりまた売ったりした資本を少しずつ増やしていき、自分のお金で土地を買い、子どもを全員大学に入れたという。子どもは全員、地元の国立大学を卒業し、全員がそれなりのポジションについている。そこに父親の見えない力があったかもしれないし、なかったかもしれないけれど、そういう経験を持つ大家さんなので、これまでにこの家に住んできた多くの店子からは絶大なる信頼と讃辞を勝ち得ており、その末席を汚すわたしもまた尊敬してやまない。淡々と強く生きて、恨み言を一切言わないこと。すごいことである。80歳になった今、某国の教育制度や社会福祉について明確な意見を持ち、顔ブックやつぶやき帳の功罪について議論をするのが好きである。わたしにはいろいろなところに母がいるのだが、この一番年長の母ほどいつも新鮮で若い考え方の人もいないように思う。


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