_ 『苦海浄土』。ちびちびとしか読み進められないのがもどかしい。弱者という立場に追い込まれてしまうことに、当事者も、その周りの人びとも、無自覚だった時代があった。今はどうなのだろうか。さまざまな立場の人に、手厚いサポートを提供する種々のサービスがあるように見える。昔は問題とならなかったような事柄でも、今はきめ細やかに焦点が当てられているようにも見える。人の世の中は、そうであれば楽になってきているのかと思えば、そうであるとはなかなか言い切れない部分もまたあって、世の中がどんなふうによくなってきたのか、わるくなってきたのか、昔と簡単に比べることに意味が見いだせないようになっているともいえる。そんなことを考えつつ、夜中に少しずつ読み進めている。それにしても、石牟礼さんが美しい日本語で描く水俣の漁村の人びとの暮らしは、なんと人間的な豊かさに溢れているのだろうか。美談ばかりではなく、哀しい話がたくさんある。そこを生き抜く人びとの力強さを前にすると、この人たちが、今われわれが公害とは無縁の環境でのんびり(それぞれの範囲内でそれなりに苦しく)生きていられるのかなとも思えた。水俣だけでなく、四大公害の被災地はすべてそうなのかもしれないと思ったりもした。苦しいときほど、人間の真価がみえるというけれど、そうであっても情けないわたしなどはどうすべきなのか。一層、頭が痛くなってくる。