_ むかしむかし、まだ飛行機の座席の後ろにパーソナル・モニターが付いていなかった頃。隣り合わせになった人は、すでに着席している人に、一声、挨拶をかけてから腰掛けていたような気がする。とてもおしゃべりの人が隣に座ったこともあったし、年齢が近い人だったりすると、乗換の空港で一緒に宿を取ったりすることもあった。だから宿まで自然に一緒にタクシーやバスに乗り、部屋に荷物を置いてからは、一緒に遅い夕食を食べるようなこともあった。懐かしい時代のことだ。飛行機の機内食も、今よりはもう少し、旅情に訴えかけてくるような、楽しいメニューだったような気がする。先日、最近、いつも乗っている某国の飛行機の朝食は、飛行機に乗ってどこか遠いところへ旅することがまだまだ胸が高鳴り、わくわくするものであったことが、もう前世紀のノスタルジーとなってしまったことを、しみじみと感じさせるものだった。塩っ気のまったくない白がゆには、漬け物も昆布もついていない。そこにバターとジャムの小さなパックがついたクロワッサンが付いていた。もう高いお金を出して、普通の飛行機に乗らなくてもいいのかもしれない。これだったら、LCCで十分だ。といってもLCCもチケット購入の時期を間違うと、普通の格安航空券と同じくらいの費用がかかったりする。旅に出かけることが、あまりにも当たり前になってしまって、その途中を楽しむということが、「旅」から外されてしまったのかもしれない。つまり、目的地に着けばそれでいいというような。。いや、無事に目的地に着くことは旅人にとっては、一番大事なことだ。だからそれはそれでよいのかもしれないけれど。