_ 「オリエント急行の殺人」再読。これが一番好きかもしれない。なぜならば、人間のドラマの要素が一番ダイナミックに扱われているためだと思う。またどんなに省略しようと脚色しようと揺るがない小説の骨格が見事に構築されているため、ドラマ化(映画化)されたものと小説との齟齬が極めて小さい。そのため、映画を先に見た読者は、単なるドラマのシナリオを再読するだけでない躍動感をさらに追体験できる。クリスティが劇作家としても見事な手腕をみせていたことを思えば、当然といえば当然のことなのかもしれない。視覚的なことこの上ない小説。少し都合がよすぎたり、うそーというしかない筋書きや、もっと説明してよ!という小さな破綻というか、小さな無理は確かにある。でも読んで楽しいという読書の最大の魅力が、この小説の全体にちりばめられている。つまりは、次にどうなるかを知りたいばかりにページをめくる手が止まらないということである。わたしは映画版に出演していたローレン・バコールが大好きなので、この映画がテレビで放送される度に、万難を排して観ることにしている。またそろそろ観たくなった。