_ どちらが勝っても、もはや魅力のある夢の国には思えない国。でも、考えてみれば、行きたいと思ったことはあまりなかった。大自然だとか、東海岸のスノッブな感じだとかに憧れたことはあるし、音楽だって好きなものがある。トム・ソーヤーも若草物語も大好きだ。今でもよく読む。本当に、どちらが勝ってもそう大きくはなにも変わらないような気がして、ただただ騒動が可能な限り最小限に収束すればいいなあと思ったりしている。
_ 最近よく買うZARAの服。サイズ選びが難しい。海外ブランドだからっといって、そう大きくサイズが異なるものでもないように思うんだけど、なぜか自分のサイズは、これでもかというくらいに大きい。だから、日本のサイズよりもふたつほど小さいのを選ぶ。ユニクロも大好きだけど、ZARAの洋服のほうが、着てみたいと思わせる何かがあるように感じる。
_ ひとつふたつほど、オンラインで会議があった。オンライン会議は少し苦手だ。どれだけ数をこなしても、決して、慣れることがない。なので、せめてもと思って、いつも少し明るい色の服を着るようにしている。どんな効果があるかわからないけれど、タイルのようなコマの中で埋もれてしまわないようにというつもりで。
_ 大好きな11月が始まる。
なぜミステリー小説しか読めなくなったんだろうと考えていたら、思い切り膝を打つような、我が意を得たりな説明を読んだ。「到底ありえないような出来事には感情移入する必要もなく、純粋にエンターテインメントとして楽しむことができるから」というもの。わかる、わかる。そういうわけで、ミステリー小説⑨割、その他の小説①割という感じで、読書をしてきたこの一年だった。
この一ヶ月で一番楽しかったのは、『陸軍士官学校の死』(ルイス・ベイヤード)。10年前に発売された翻訳もの。ついでにいうと、翻訳もののほうが物理的に距離がある分、感情移入への抵抗も高くなり、ちょうどいい塩梅に楽しんで読める気がする。
音楽では、もっぱらSonic Youthのカーペンターズのカバー曲「Super Star」を聞いていた。完全にストライクゾーンに投げ込まれた曲。出だしから襟元をぐっと鷲掴みにされたような気持ちになって、曲が終わっても元に戻れないくらいに、完全にノックアウトされてしまっている。それとサニーデイ・サービス「春の風」。不惑を超えてもこのエネルギー、である。クラクラしてしまう。ビデオの主演の男の子もまた、とてもいい。
_ 意外なことに、朝起きたときは、まだ雨が降っていなかった。だけど洗濯はせずに、まずは掃除。図書館で借りている本を眺めて、リモート授業の準備。早く読みたい気持ちを抑える。最近読み漁っているのは、現代韓国文学。といっても借りてきたものの、読んだのはまだ2冊だけだ。しかしその2冊は、とてもおもしろかった。『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン)は、ただのオムニバスものではない。まるで万華鏡で、まるで木の根っこハウスのようだ。人は一人で生きているのではないということばを聞くことがある。でも、ほんとかな。この本を読むと、ふとすれ違っていたり、通りすがりに見たとかだけでも、なにか小さな「作用」があることもあれば、そうでないこともあるのだ、そういうことがあるかもしれないのだなあと思えるのだった。そんな、ハッピーエンドを期待して毎日生きているわけではないけれど、ふと、気持ちが元気になるような気がしたのだった。とてもいい本だった。
_ 海と山と森のあるところを旅してしばらくしてから、コロナの時代が始まった。
コロナの時代の始まりの始まりの頃、続けて2回、日本とガリバーの馬の国を往復した。空港の売店の店員は、青い顔をして、目は真っ赤に充血し、ゴホゴホと不穏な咳が止まらない様子だった。機中で飲む飲み物を持ち込み用のビニールに入れてもらい、大量にマスクをつけた人々が次々と入国手続きへと進む中、不穏な空気をかけ分けて、搭乗口へ進んだ。途中、トランジットの空港では、わたし以外、だれも人がいなかった。深夜の乗り継ぎではあったけれど、白く輝く照明に照らされているのは、私一人である。ありえない。わたしには誰も見えないが、そこに人はいたのだろうか。ランゴリアーズを持ってくればよかった。不穏な時代なが始まる空気が流れ始めていたのだろう。それに影響されたのだろうか。その機中で読むために持参していた文庫本は多和田葉子の『献灯使』だった。
まだなんの予兆もない日本に到着し、わたし以外にほとんど人気のない特急電車に乗り込んだ。空気は明るく乾いて寒く、枯れわたる一面の田んぼが見えた。
そして国境封鎖の満潮に追いかけられるようにして、彼の地をあとにしたのは、桜の季節の始まりの頃だった。数年ぶりの日本である。子どももわたしも家にいたりいなかったり、学校へ行ったり、仕事に行ったり。いまだどこかしら宙に浮いている感じがどうにも拭いきれない每日である。